長谷川正徳のちょっといい話

第13話 人間は二度誕生しなければならない

人間は二度誕生しなければならない 挿絵

 文豪トルストイはこう言った。

「人間は二度誕生しなければならない。
一度は母親によって肉体の誕生を、もう一度は宗教によって魂の誕生をとげねばならぬ。
この二度の誕生を経てはじめて本当の人間になるのだ」

と。
味わい深い言葉だと思う。

 われわれの日常生活はごまかしが多い。
他人の幸福を心ではねたみながら、表面では自分もよろこんでいるようにみせかける。
心で欲をかきながら、表面は淡々たる自分であるようにみせかける。
 ところが何かの拍子に自分のみにくさ、罪の深さといったことに気がつく時、事情は全く別になる。
他人のせいでもない、悪いのは自分自身だと気づくとき、人は苦悩せざるを得ない。
この罪に悩み、心のみにくさに苦しむということは真実の心が目をさましたからである。
まことなる心が一番深いところで動きはじめたからである。

 仏教では、この罪を意識させるのが仏性のはたらきだという。
光がさしこんできて、はじめて闇の中にいたことに気づくのである。
自分の闇に気づくとき、光りを仰がずにはいられない。
救いを求めずにいられない。
自分の見にくさに耐えられないとき、人は聖なるものにあこがれ、聖なるものの前にひれ伏すのである。
そこに宗教の門がある。
この門をくぐってはじめて人は二度目の誕生、魂の誕生をとげるのである。

今日のハイテクノロジー文明も、人類が魂の誕生をとげないがぎり、人にとって幸福な文明とはならない。

前の法話
長谷川正徳のちょっといい話 法話一覧に戻る
法話図書館トップに戻る