長谷川正徳のちょっといい話

第17話 小さな横綱、千代の富士

小さな横綱、千代の富士 挿絵

「やることはやった、思い残すことはない」

このさわやかな言葉を残して、小さな大横綱、千代の富士は土俵を去った。
史上最多の1415勝。
戦後最多の53連勝等々の大記録。
ことに休場明けで迎えた9場所のうち6場所の優勝は驚きのほかはない。
 小さな体、そして怪我、持病の肩の脱臼は10数回に及んだ。
彼はこれを克服した。
そのためには1日500回以上の腕立て伏せなどで鍛練した。
そしてあの全身バネのような体を作り上げた。

九重親方はいう。

「あれは怪我を克服するごとに強くなった。
もし、肩の持病がなかったら、強引な相撲しか取れず、あんなに強くなれなかったと思う」

相撲は「心・技・体」だというが、千代の富士はハンデを武器に変えてしまう強靭な心=精神力があった。

人生すべてこの教訓に学ぶことができる。
人に弱点やマイナスはつきものである。
その弱点やマイナスを人のせいにしたり環境のせいにしたりして挫折してしまう。
どんなことがあっても、執念深くあきらめることを知らない理想主義精神をもつとき、マイナスは必ずプラスに転化する。
それが人間性の構造というものである。

人格完成と幸福の達成とに対する不屈の志を持たないものにはおよそ何がプラスであり、マイナスであるか、マイナスのプラスへの転換とは何を意味するのかを把むことはできない。

 千代の富士はこういう教訓をわれらに残してくれた。

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