長谷川正徳のちょっといい話

第39話 人間の拝みあいと法の下の平等

人間の拝みあいと法の下の平等 挿絵

 法華経の中に常不軽菩薩(じょうふきょうぼさつ)のことが説かれている。
この菩薩はその名の通り、逢う人、見る人を拝んだ。
そしてついに仏になったという。
この人を拝み、人と人とが拝みあうということ、それを深く説き教えているのが仏教である。

 今日、人権といわれるものも、この宗教的基盤から考えられたとき本物となろう。
人間尊重の根本からいって、非常に感動させられた東京高裁のある判断を紹介しよう。

 千葉県在住の38歳になるピアノ教師の女性は、前妻との離婚が成立しないまま、事実婚状態にあった母親との間に生まれた。
父親はその後、前妻と離婚、この女性の母親とも別れ、別の女性と再婚した。
平成元年に父親が死亡した際の遺産の法定相続人は、再婚した後妻,前妻との間の長男(嫡出子)と、非嫡出子この女性の3人だった。

 この女性が審判を申し立てたところ、千葉家裁は民法900条の規定通り、後妻が遺産の半分、長男に6分の2、この女性に6分の1を相続させる決定をした。
そこでこの女性は東京高裁へ抗告した。

東京高裁は、法律上の婚姻関係がない父母の間に生まれた非嫡出子が嫡出子の半分しか相続が受けられないとする民法900条の規定について「法の下の平等を定めた憲法14条に違反する」と初の違憲判断を示し、嫡出子の長男と同額の相続を命じたのである。
東京高裁の決定は特別抗告がなく確定したのであった。

 他人の不幸の上に自らの幸福を築く生き方を否定する仏教の教え、考え方と通じ合う判断と申すべきであろう。

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