長谷川正徳のちょっといい話

第59話 大災害は人を試す

大災害は人を試す 挿絵

 大きな災害は人を試すとか、ふだんは見えなかった人の心が見えてくるとかいうが、全くその通りである。

 阪神大震災の報道を見て、思わず涙ぐむような場面にしばしば出あった。

 「こんなときや、みんなタダや。持っていって食べてや」と、被災者にお金を取らずに野菜や魚の煮物を渡すお惣菜屋さんや豆腐屋さん、リンゴやミカンなどを儲けなしの格安で販売する八百屋さんなど。日本全国から、そして外国からも相次いで善意の救いの手が届いた。このような無数の優しさが荒涼として寒い被災地の冬空を暖めた。

 この度の大震災を伝えた海外のマスコミの多くは、災厄の無残さの報道の一方で、申し合わせたように、市民の平静さと維持されている秩序に驚きの目を見張っていた。

 突然襲った大災害の混乱が、暴動的な動きや略奪といった事態に全くつながらなかった事実である。

「ガマン」とか「シカタガナイ」といった日本語をローマ字書きで引き合いに出しながら、自然災害へのあきらめが日本の民族的特性と解説する論じ方も目についた。

 仏教の説く六波羅蜜のなかに忍辱(耐え忍ぶ)というのがある。いつとはなく、こういう教説が日本人の深い内面の精神を作っていったのであろう。

 そしてこの内なる精神が、荒涼とした風景のなかに、人間の最も尊い感情である連帯感となって脈打ったのであろう。

 日本人のこの優しさと連帯を生かし切れるか。日本社会の真価が問われていると申せよう。

※この法話は平成7年に書かれたものです。

前の法話
長谷川正徳のちょっといい話 法話一覧に戻る
法話図書館トップに戻る