長谷川正徳のちょっといい話

第74話 二利同時

二利同時 挿絵

 仏教では、自分の利益と他人の利益が同時に成立することが、ただしい生活の在り方だと教えておられます。

 一見なんでもない様に受けとれますが、大変むずかしいことでございます。人間は誰一人として現代社会から孤立して存在することは許されません。にもかかわらず、とかく人間は、その生活に少しの余裕が出ますと自分の力で自分の意志の計らいで生きている様なうぬぼれ、錯覚の世界に陥ります。

 しかし人間であれば誰しもが、大なり小なりの欲望を持って、この社会機構の中で仕合わせになりたいと願いつつ努力しているのも事実でございます。この仕合わせになりたいという人間の欲求には、それぞれ共通するものと相反するものとがございます。すなわち生理的な欲求、社会的な欲求、自我実現の欲求等でありましょう。この欲求を満たす為に人間は得てして他人を排斥したり、虐待したり、不正を働き、争いの種をまくのが常でございます。

 又、名誉欲、権勢欲に執着し、みかけは大衆への奉仕に名をかり、ついぞ名利の欲にかられて自ら落し穴に落ち込むことも多いのでございます。

 特に商売人が商売になれて客を忘れる時等、お互いに気をつけねばならぬことでございます。

 お互いに自分の置かれた立場をとくと判断し、常に大衆の為に生き抜く努力こそ、自利自他同時の世界であり、菩薩の世界でもございます。

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