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第47話  奇跡と運命


挿し絵   平成6年秋にポルトガルで太鼓の林英哲(はやし えいてつ)さんと一緒に声明(しょうみょう)公演をやった。
坊さん80人。3000人収容の会場は満員で、入れなくて文句を言う人が外に1000人いたらしい。
夜10時にスタートした公演は11時半、大喝采のうちに幕。
片づけをおえて、ホテルに向かうタクシーに乗ったのは午前2時だった。
助手席にのった私を見て、リスボンのタクシードライバーは言った。
(以下英語の会話を私流に訳します)

「あんた、仏教の坊さんかい?」
「うん」
「へえ。聞きたいんだけど、仏教に“奇跡”ってあるかい?」
「えーとね、キリスト教のような意味での奇跡じゃないかもしれないけど、あるよ」
「どんな奇跡?」
「考えてごらんよ。日本の坊さんが、こんな夜中に、他の誰でもない、あなたの車の助手席に乗って、英語でしゃべってる、それだけでも奇跡だよ。おまけに私がポルトガルに来られたのは、飛行機が落ちなかった、家族の中に病人がいなかった、他に何千何万という条件が整ったからだよ。これが奇跡じゃなくて、何なのさ」
「いいや、それは奇跡じゃない」
「奇跡じゃない?」
「ああ、それは“運命”って言うんだよ。神さまがそうさせたんだよ」
「……」

  来週は白雪さんからのリクエスト「引導を渡してやる!」でいきます。
“最後通告”の意で使われる表現ですが、もともとの意味は……
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