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第53話  どうして人は歌うのか


挿し絵    『日本音楽の再発見』(講談社現代新書462)は作曲家團伊玖麿さんと、東京芸大の小泉文夫さんの対談集。ありとあらゆる分野から音楽文化を語っていて、とても面白い本です。
   この中で、月に一回の声明(節付きのお経や讃)ライブで、必ず引用する話が出てきます。

“ルバング島で小野田少尉が見つかった時、30年も一人で暮らしてきたのに日本語がとても流暢だった。新聞記者がそのわけをたずねると、「だって歌っていましたもの」と答えている。孤独だからいつも歌を歌っていた、だから言葉はちっとも退歩しなかった、というのです。だれに聞かせるものでもなく、おそらく自分の魂を慰めるために、生きていくために歌は彼にとって必要だった。その結果日本語を忘れなかったのですよ。(71頁)”
“歌のコミュニケーションというのは日常の言語を越えたなにかでしょう。(同)”
“通常のコミュニケーションというと言語によるわけですから、言語が否定される環境で歌が生まれてくる、ということかもしれません。(72頁)”

   普通の言葉では通じないと思われる相手――仏や死者や、目の前にいない恋人。そのために声明、鎮魂歌、挽歌、ラブソングが生まれてきた。メロディーをつけると自分の想いが相手に通じそうだと感じたに違いない(だから、恋人の目の前でラブソングを歌うなんて無粋なことしないように……)。 そんな意味で、お坊さんが称えるお経も音楽として聞いてみてください。“退屈な”お経が違って聞こえてくる筈です。

   次回は先日の15、16日に有明ビッグサイトで行われた“デザイン・フェスタ”で出会った人たちとの話から。「妙な言い方ですが、本当のお坊さんたちです」の張り紙効果の巻!

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