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第71話  言いたいことが後に来る……


挿し絵    世に言われる……“奴は酒は飲むが、仕事はできる”なら使おうと思うが“仕事はできるが、酒を飲む”だと使う気にならぬ……と。これは単に、言葉の順序が大切だというだけでなく、私たちは、本当に言いたいことは最後に言うという習性をもっているということだ。
実はこれは、―私がお寺の玄関で、身近な人を亡くした人が、どれだけその人のことを吹っ切れたかを知る大切な手がかりになっている―と書くと驚かれるだろうか。

   まだ、亡き人を“本当に死んでしまったのだ”と心底納得していない遺族は、次のような言い方をされる。
「住職さん、うちのお父さんはこんなこともありました。あんなこともあったんですよ。……でも、死んじゃいましたけどね」
これが、亡き人を“亡き人”としてあきらめられた方は「うちの死んじゃったお父さんはね」と口火を切り、次に「あんなこともありました。こんなこともありました」と続いていく。こうなればしめたもの。あとは亡き人へ思いを、これからの自分の人生に活かしていく準備が整ったということでもある。
お坊さんとして20年の経験から、この言葉の順序が変化する目安は、だいたい3回忌、つまり亡くなって丸2年くらいのようだ。

   さて、言葉の最後に言いたいことが残るというのは、言うほうだけでなく、言われるほうにも言える。最後に言われた言葉が心に残るのだ。
子供が“お前はやさしいけど、勉強ができないね”と言われれば「そうか、僕は勉強ができないことを非難されているのだ」という屈辱感にも似た思いが残る。
逆に“勉強はできないけど、優しいものね”と言われれば、うれしい気分に満たされるという具合である。
これを踏まえて、心に余裕がある時には、相手を勇気づけるような言葉の順序で(無理やりにでも)話したいものだと思う。

   さて、今回は
“言いたいことは分かるけど、うまく書けてない”か、
“うまく書けてないけど、言いたいことは分かる”か、どちらでしょう?
   次回は、頬をなでる春風に思いを寄せて「風のいどころ」でいきます。袖振り合うも他生の縁の“ちょっといい話”バージョンです。

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