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第88話  雑巾がけと、ハタキかけ


挿し絵  群馬県の赤城山の麓に金剛寺というお寺がある。住職の志田洋遠さんは子供会を30年近くもやっている。5年前、この住職から面白い話を聞いた。

 夏なのに、冬休みの話で恐縮だが、冬休みの子供会は、まず本堂の掃除からはじまるそうだ。赤城おろしとよばれる冷たい風が吹く土地でもあり、まさに凍てつく寒さの中での仕事である。何人もの子が、それぞれ掃除道具を持ち、白い息を吐きながらせっせと掃除をするのだが、この道具選びが面白いらしい。
 小学校高学年の子はまずハタキを取るそうだ。なぜかというと、ハタキは、服の袖をのばせば手を露出せずにすむ(まるで、ピーターパンのキャプテンフックのカギ手状態である)。もう一方の手はポケットにいれておけば、寒さ対策は万全だ。けっきょく、小さな子がバケツの凍るような水をつかった雑巾がけになることが多いそうだ。
 志田さんは言う。“まずハタキを取っていた子が、自分からすすんで雑巾がけをするようになるまでに、3年から5年かかるんだよ”

 この話を聞いたとき、子供会というのは、そういう素晴らしい人間教育ができるところのかと感心したことを覚えている。それから5年……
 先日、お風呂に入っていて、ありゃりゃ!と気がついた。あの話は、子供の話ではないのだ。大人のことを言っているのだ。
 この夏、私は100円ショップで買いまくったウチワの裏に、可愛いホトケさまとちょっとしたジョークを書きまくり、配りまくっているのだが、これを配る時「お好きなのをどうぞ」と言ったことがあった。20人ほどの集まりだったのだが、エライことになったのだ。
“アタシが先に見つけたのよ!”
“でも、私が先に取ったのよ!”
“あなたはもう好きなの取ったんだから、他のは見なくてもいいじゃないの!”
なんて具合である。あまりの恐ろしい光景に、その次からは、年齢の多い方からどうぞ、と言うようにしたくらいである。

 3年から5年で、雑巾がけをする子がいるのに、30年たっても50年たってもハタキを持ちたがる大人がいるのだ。
 仏教には「自未得度、先度他じみとくど、せんどた」という言葉がある。自分よりも、まず他の人を悟りの岸に渡すという菩薩の心意気を言った言葉である。いい言葉だと思う。

 さて、次回は「20年の重さ」でいきます。友達がお寺の掲示板用にと教えてくれた言葉「あなたがダラダラ生きている今日は、昨日亡くなった人が生きたかった一日である」にかかわる話です。

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