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第96話  面倒をみたんだから面倒みろよ


挿し絵  家族で車にのって、夕飯に出かけた。後部座席には、私より背が高くなった長男、90kgの私より体重で巨大化した次男、身長157cmの母より背も態度もデカイ娘が、肩を交差させながら乗車した。こうなると、ルームミラーでは後方確認がほとんど不可能である。

 しかし、いつもの習慣で、ルームミラーを見る。すると娘と目があった。娘はボソッと言った。
「ねえ、お父さんとお母さんが寝たきりになったら、誰が面倒みるの?」
正直、ドキッとした。自分では寝たきりになったらどうしようか、何をしようか…と考えることはあっても、まさかわが子がそんなことを考えているとは思わなかったからだ。
で、私は言った。
「そりゃ、お前たち三人が面倒をみるに決まってるじゃないか」
すると後部座席の三人は声をそろえて、エ〜ッ?と言った。私はあわてた。
「おいおい、冗談じゃないよ。お前たちは覚えていないかも知れないけど、お前たちは生まれてから少なくとも六カ月は寝たきりだったんだぞ。食べ物だって一人じゃ食べられない、シモの世話だって、みんなお父さんとお母さんがやってたんだぞ」
ここまで言って、今度は別な意味で、あわてて隣の家内を見た。ジロリと睨まれた。その目は“あなたは、ほとんどやってないじゃない!”と怒っていた。目のやり場に困った私は正面を見て運転しながら、後ろの子どもたちに言った。
「だもん、お父さんとお母さんが寝たりきりになったら、お前たちが面倒をみるの、当たり前じゃないか」

 言ってからシマッタと思った。もし、子どもたちがこう言ったらどうしよう……
“わかったよ。六カ月は面倒みるよ”
すぐにラーメン屋に到着したので、子どもたちから条件付きの介護保証の話はなかった……。
 仏教の布施というのは、無条件でなにかをさせてもらうということだ。なんらかの見返りを求めた行為は、結局どこかで行き詰まることを思い知った夕方だった。

 さて、次回は運動会シーズン到来で、ビデオカメラのテレビコマーシャル花盛りに触発されたので“ビデオで撮るのは子どもばっか?”でいきます。わが子に残すのは成長の記録だけじゃないと思うのですが……という話でゴザンス。
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