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第98話  花束贈呈の謎


挿し絵  私は覚えていないけど、どうやら私の母は、私を口から先に生んでくれたようで、司会をさせてもらった結婚披露宴は10をこえる。多くは、来賓の肩書で専門用語が多いお坊さんの披露宴だ(来賓の中で、黒の洋服で来るお坊さんが多い時、ロビーはかなりヤバイ雰囲気になる)。

 披露宴スケジュールの打ち合わせをすると、だいたい最後に両親への花束贈呈がある。これをテレルからとか、お涙頂戴見え見えという理由で、できればやめたいという新郎新婦がいる。そんな時私は、まるでプロの司会者のようにこう言う。
 “披露宴がお開きになったら、新郎新婦、両親、仲人はドアの外で、皆さんをお送りするでしょ。そのために、雛壇にいる新郎新婦を出口の方へ移動させなくちゃいけないわけ。主役の二人を何の芸もなく、みんなの注目の中を下がらせるわけにはいかないでしょ。だから、花束贈呈という理由にかこつけて、二人を移動させるわけ。両親はもともと出口のそばの席だし、お仲人さんは会場が暗くなっている間に移動してもらえばいいんだから。だから、やろうよ」
 こう言えばほとんどの新郎新婦は“まあ、そういうことなら……”と承諾してくれる。加えて私は“それでね。家で両親を前にお礼なんか言えないだろうから、両親へのメッセージを書いておいてよ。花束贈呈の時に読むからさ”と言う。
 不思議といえば不思議。当たり前と言えば当たり前なのだが、このメッセージ、言葉の違いはあるが、だれもが同じことを書く。そしてそれが仏教と同じなのだといったら驚かれるだろうか。

 メッセージの概要は次のようなものだ。まず、自分を生んでくれたことを感謝する。そして、素敵な伴侶にめぐり合ったことの縁に感謝。最後に、伴侶の親も自分の親と思って大切にし、楽しい家庭を築いていきます、と宣言する。
 この内容は、私が月に15回もやっているご詠歌の会で、全員で読むご信条と呼ばれる最初の文章と同じだ。

 “がた人身じんしん
       (多くの生命の中で人の身に生まれた!)、
  がた如来にょらいおしえに値遇ちぐうせし
       (時代や場所が違っていたら出会えなかった仏教に出会えた!)、
  因縁いんねん感謝かんしゃ
       (そんな諸々の原因と条件に感謝!)、
  父母祖先ふぼそせんおんほうぜん
       (この命をつないでくれたお父さん、お母さんやご先祖さまの恩に報いるようにちゃんと生活していきますよ!)”

 自分の人生を真剣に考えた時、みんな同じようなことを考えるのだと思う。仏教は難しいものではなく、当たり前のことを言っているのだと、花束贈呈の時の両親へのメッセージで、いつも思う私である。

 さて、次回はもうすぐ七五三なので、それにちなんで“お元気の裏側”でいきます。何がちなんでなの?と思われるでしょうが、私の中ではじゅうぶん、つながるのでございます。

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