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第99話  お元気の裏側−七五三−


挿し絵  ありがたいことに、この秋も月に2、3回はお話を頼まれているのだが、司会者の、穴があったら入りたいような紹介の後、皆さんの前にでて私は開口一番“聞いて極楽、見て地獄、名取でございます”と言う(ご婦人が少なければ“破れ猿股、お寺の窓よ、坊主が時々顔を出す。というわけで……名取でございます”と言う場合もある。下品ナ挨拶ダ……)。
 その後に“皆さん、お元気そうですね”と加え、ボソッと本音をつぶやく“まあ、元気だからここにいるんでしょうけど……。”
 こんなミョウチキリンな言い方をするようになったのは、アフリカへ旅行した日本人の話を聞いてからだ。
 その日本人、アフリカの草原で元気に走り回る子どもたちを見て、現地のガイドにこう言った。
 「やはり、アフリカの子どもたちは、自然の中でそだっているだけあって、元気ですね」
 するとガイドが言った。
 「ここでは、元気な子どもしか生き残れないのです」
 「……」

 お寺には過去帳という大切なものがある。檀家さんたちの亡くなった年月日と俗名、戒名が記されている(お寺が火事になったら、本尊さまとこの過去帳だけは持ち出せといわれるくらい大切なものだ)。この過去帳に記載されている三分の一近くが、子どもの戒名だ。この割合は200年以上の歴史があるお寺ならほぼ同じはずである。日本でも、少し前まで、それほど子どもが無事に成長することが困難な時代だったのだ。病気、栄養失調、事故、自然災害は言うに及ばず、間引きしなければならないという悲しい時代がついこの間まで続いていた。
 医療や、食生活などが発達したおかげはあっても、乳幼児検診の必要性は子どもが弱いことを物語っているし、小児科の待合室はいつも満員だ。身体に抵抗力がついて、異物を飲み込んだり(私の長男は私の不注意で吸殻を二度飲み込み、苦しい胃の洗浄を二度受けた)、危険を回避できるようになっていくステップが、数え歳の3歳、5歳、7歳というのは今も代わりがないだろう。
 逆にいえば、その歳まで生きられなかった子どもたちがたくさんいるのである。だからこそ、どうにか3歳まできた、やっと5歳まで育った、ようやく7歳まで成長してきた我が子の命を祝うのである。
七五三の行事はこんな裏側がある。祖父母や親戚への格好つけのためにやるのではないのだ……。

 さて、次回は高鍋さんからの質問「仏教で33ってどんな意味があるんですか」に答えて、“ほら、あなたの隣にも”でいきます。
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