ちょっといい話

第105話 ケンタは食べられない

挿し絵  第103話からの続きです。まずそちらをお読みください。

 両面テープがないことに気づいた時、私のココアと小麦粉をまぶしたような顔。充血した目。汗の重みで垂れ下がったTシャツ。右手は木槌を離しても握った形のままだった。
 その姿でホームセンターに両面テープを買いに行けば、嫌悪の視線を浴びること必定である。どうせ浴びるなら――と、シャワーを浴びてから出かけることにした。ついでに昼食を作れなかった事情もあり、店近くのケンタでランチボックスでも買ってくるからと言い残して浴室に入った。しかし、汗と汚れを落しながら思った。
“小鳩を助けて、ケンタを食べたんじゃシャレにならない”
――そこで、おそばでも茹でておいてよと言って出かけた。
 その後一カ月半、ピィちゃんと名付けられた鳩は、私が親になった。餌も自分で食べるようになり、寺の庭で遊び、私の姿を見るとどこからかギシギシと羽音をさせて飛来し、私の頭や肩にとまるまでになった。
 しかし、ついに洗濯物へのフンの被害が甚大となった10月半ば、20キロはなれた鳩仲間が大勢いるお寺で離した。寂しかったが、今日まで戻ってこないところをみると、きっと仲間ができたのだろう。

 でも私は夢みている――数年後、玄関のチャイムがなる。対応に出ると可愛らしい女性が立っている。彼女は笑顔で言う。
「昔たいへんお世話になった者です。ご恩返しに何かお手伝いさせてください」
と。――なに?彼女の胸?そりゃ、もちろん、鳩胸ですよ。

 さて「ちっともいい話でない」3回を終了して、次回は“大往生って言わないで”です。
遺族への心配りのつもりが、エライことになった体験談でございます。