ちょっといい話
第106話 大往生って言わないで
![挿し絵](image/houwa106.jpg)
で、結局訃報を聞いてとりいそぎ、
聞くと、数日前まで話もできたが、最期は眠るように逝ったとのことだった。私は「そうですか。それでは大往生でしたね」と言った。これが今思えば、僧侶という立場を利用した傲慢な発言だった。生死の専門家のような人間が“大往生でした”というお墨付きをあげることで、身近な人の死を遺族が安心して受け入れられるだろうという判断があったからだ。
やがて、49日の法要。後座で清宴がはじまり30分ほどたった時だった。故人の弟さんが私の席にやってきて、こう言った。
「兄貴が亡くなった日、住職さんは大往生だったって言ってくれたけどね。兄貴が家族や兄弟に、それまでどんなことをしたか知っていたら、あんな結果良ければ全て良しみたいなことは言えなかったと思うよ」
以来、私は自分から「大往生でしたね」とは言えなくなった。この話、どこかおかしいので、来週はべつの角度から取り上げます。題して「頑張ってって言わないで」です。