ちょっといい話

第115話 オンナの敵は……

挿し絵  いよいよ今回は第111話からの話の決着を迎えます。
 “裸”という、私達人間にしてみれば当たり前であり、飾りのない姿で何かを表現したい女性ダンサーと、人間や宇宙のあり方の根源をもとめる仏教のお経によるコラボレーション。ライブの差し迫った状況に“だってその人、困ってるんでしょ”と快諾してくれたS君。
苦境から救われたダンサーのTさんは、私からの電話に大喜びした。もちろん、私が感激したS君の僧侶らしい返事の経緯も伝えた。細かいことはS君と相談して欲しいと連絡先を教えた。
ホッとため息をついて受話器を置いてから2分後電話が鳴った。S君からだった。

「名取さん。さっき送ってくださった彼女の企画書とプロフィールを、一応母に見せて話をしたら“そんなことをするのなら、お坊さんをやめて、このお寺から出ていきなさい!”と言われてしまいました。今も“動悸がとまらない”と言いながら夕飯を作ってます……」
 良識派であり、保守的な考え方をもっているからこそ、お寺の奥さんは檀家さんと対応できるのである。私はS君に親子関係にひびを入れかねない種を蒔いてしまったことを詫びて電話を切った。そして、すぐ受話器をあげてTさんの電話番号を押した。

「……なんだか、今日はぬか喜びばかりさせてしまってごめんね。でも、そういうわけで、S君もお母さんからストップがかかっちゃんたんだ」
 Tさんは、そうですかと残念そうに言うと、独り言のようにつぶやいた。
「そうなんだよ。そう。オンナの敵はいつもオンナなんだ……」
経験の浅い私には良く分からないが、なんだかとても深い深い意味があるように思えた。

 2月11日、吉祥寺STAR PINE'S CAFEは300人近い観客で満員だった。若い女性のほうが多かった。Tさんプロデュースの一夜。オカマちゃんの歌、ハードなロック、活弁映画、そして彼女のパフォーマンスに全員が酔いしれた。彼女と一緒にやってくれたのは、みごとな声の浄土真宗のお坊さんだった。3時間に及ぶステージを観て、楽しかったねと家内と店を出たのは午後11時近かった。吉祥寺裏通りを歩きながら私はふがいなくも言った。
「あれなら、俺がやればよかったな」
家内は無言でフーッと大きく息をついた。

さて次回は高崎のやまちゃんからのリクエスト"老いて 楽書き 落書き"をいただいて「余生」でいきます。定年後の方、子育て終えた方、その方々を知り合いに持つ方、乞ご期待!