ちょっといい話

第128話 何のための超能力

挿し絵  お寺の本堂へ行くと、お堂の軒下や、廊下に座っている、頭がツルツルのお坊さんの像と出くわすことがある。通称“なで仏”“お賓頭廬びんずるさん”として親しまれている。この方は、お釈迦さまの弟子の一人、つまりインド人で、正式名をビンズル・ハラダという。日系二世みたいな名前だ。

 さて、昔々のインドでのこと。ビンズルさんが街を歩いていると、大きな象の周りに人だかりができている。何だろうと近寄ってみると、象の頭の上にたいそう立派な木でできた鉢が載っている。
象の持ち主いわく。
「さあ、お立ち合いの皆々さま。象の頭の上の鉢を、手を使わずに取った方には、無料で進呈しますぞ」
 鉢をもって托鉢しながら生活するビンズルさん、そのみごとな鉢が欲しくてたまりません。そこで、修行で得た超能力を使って、その鉢を象の頭上から、自分の手元へと空中移動させて、まんまと手に入れました。これで得意になったビンズルさんは、お釈迦さまに事の次第を報告。がっかりしたのはお釈迦さま。残念そうに、ビンズルさんに申し渡します。
「お前の気持ちは分かるが同意できない。お前のその超能力はいったい何のためにあるものなのだ。自らを律し、悟りを得るための修行する者が、どうして、人前でその力を見せびらかし、自らの物欲をかなえようとするのか。そのような者は、我が集団に置いておくわけにはいかぬ。残念だが、破門である」

 その言葉に、ビンズルさんは自分の至らなさを心底痛感します。そして誓いを立てます。
「まったく馬鹿げたことをしてしまいました。私は今日より以後、悟りを目指して修行する仲間がいるお堂の中には入りません。いや、入ることなどどうしてできましょうか。私はお堂の外で、人々の苦しみを救うことに専念いたします」
 こういうわけで、どうにか破門を許されたおビンズルさんは、今でもお堂の外にいます。人々は、自分の手足などの痛い所をなでては、おビンズルさん身体の同じ箇所をなで、再び自分の身体をなでます(現在日本では、保健所から、そういうことは衛生上イケマセン!とお達しが出てます)。
超能力とケジメと人々のため、というお話でした。

 さて、次回は8月初めだからこそお伝えしたい。西国観音霊場のうち、琵琶湖に浮かぶ三十番札所の竹生島(ちくぶじま)、宝厳寺のご住職から聞いた話を“アブナイおばさんの装い”と題してご紹介します。私はこの話を聞いた時、しばらく何も言えませんでした。