ちょっといい話

第142話 皆に待たれてく人は

挿し絵  芸能界では、人気絶頂の時に引退する人が時々います。山口百恵、キャンディーズなど、ファンならずとも「まだ続ければいいのに」と引退を惜しみました。さらに引退ではなく、尾崎豊、X-JAPANのhideたちのように人気絶頂で亡くなる場合は、大勢のファンが葬儀にかけつけて、その死を悼みます。葬儀の現場にいる者として、時々耳にする次の言葉があります。「住職さん。こうやって大勢の人に惜しまれているうちが華だね。誰もお参りに来てくれないようなお葬式は寂しいものね」

 さて、今回のタイトルは10年前に亡くなった父が書き残した言葉の一部です。
全文は
“皆から待たれてく人は 皆から惜しまれてく人より 幸せなのです”
というもの。つまり「あの人まだ死なないの?と死を待たれるような人は、えっ?まさか?あの人が?亡くなったの?と言われる人よりも幸せなのだ」と書いたのです。

 父がこの言葉を書いたのは、57才で母が亡くなってからしばらく経ってからのことでした。母が亡くなった時、父は61才でした。妻を亡くしてから肝硬変が発覚。それからは入退院をくりかえしていました。本当なら最も気の置けない(安心できる)妻が看病してくれる筈が、先にってしまった。体調が悪い時、寺のこともできずに入院している時には“自分はひょっとしたら皆から死を待たれている者なのかもしれない”と思ったかも……。
 そんなふうに滅入っていた時に、きっと母のことを思いだしたに違いありません。まだまだ旅行もしたかった、孫たちとも遊びたかった、思い残すことがたくさんあっただろう妻……それに比べたら、“なんだかんだ言っても、57才で死んでしまった女房よりも、こうして生きている自分のほうがずっと幸せじゃないか”と。

 みなさん、まだ死なないの?と言われるくらい、うーんと、長生きしましょ!
 さて、来週は七五三。晴れ着の親子連れ。あれは子供のお祝いじゃないかも?