ちょっといい話

第144話 ザケンナ!

挿し絵  “他人を恨むエネルギーと許すエネルギーはだいたい同じである”という言葉に出合ったのは30歳代前半だっただろうか。何となく気になる言葉だったので、今でもしっかり脳裏にインプットされている(仏教者が言った言葉かどうははっきりしません)。なるほど、怒りや恨みなどのマイナス感情は心と身体をヘトヘトにする。同じ量のエネルギーならば、許すというプラス方向に使ったほうがずっといい。心も身体も元気になる。

 8年ほど前、駅のそばでPTA仲間との忘年会をした。さて帰ろうと駅のロータリーでタクシーを待っていると、二人の若者が酩酊気味で並んでいた自転車を倒してそのまま立ち去ろうとした。「えっ、そのまま行っちゃうの?」とつぶやくと、二人は私に向き直って首(というより顎)を前に出し、頭を約15度傾けて「なんだテメエ、文句あんのかぁ」とスゴんだ。幸い駅前交番のお巡りさんがすぐに出てきてくれて、彼らを交番へ連れて行こうとした。連行されながら彼らは私たちに「テメエら。おぼえてろよ」と叫んだ。ここで私は言わなければいいことを言ってしまった。「粋がってるんじゃないよ」――この一言で、彼らは再びブチギレ!である。お巡りさんの手を振りほどいて私に突進してきた。私は無抵抗を決め込んでいたので、胸ぐらを掴まれても何もしなかった。そして再びお巡りさんが捕まえると、今度はお巡りさん相手にケンカである。こうなると公務執行妨害だから、注意をして帰すというわけには行かない。調書作成の関係上、私も帰れなくなった。
 警察署までパトカーで行き(生まれて初めてパトカーに乗れた。嬉しかった)、すでに虎箱で寝ているという彼らに憤りを覚えながら調書に捺印し、午前2時にパトカーで送ってもらった。
 この話を4歳年上の兄に話したら「そりゃお前、一生懸命イキがっている人に“粋がってるんじゃないよ”と言えば怒るよ」と言われた。それを聞いて「ナルホド……」と思った。それと同時に不思議に彼らへの怒りも消えていた。

 それにしてもああいう若者は何とかしたいと思うのだが、昨年の成人式会場で乱暴狼藉をはたらいた若者たちに対して、コメントを求められた北野武は“自分で気がつくまで仕方がないでしょう”と言った。彼らが気づく材料は、マスコミからの批判はもとより仲間同士の会話など周囲に沢山あるはずだ。あとは彼らがそれに気づくかどうかである。できれば、腹を割った仲の友だちや家族が注意(意をそそぐって書くんですねえ。初めて気がついた)をしてあげられれば、気づくまでの時間は短くてすむだろうと思う。

 今回のお題をくれたチョコママさん、うまく書けなくてごめんなさい。
さて、次回は福岡のミケさんからのリクエスト「坊主はなぜ坊主なの?」に答えてまいります。題して“後ろ髪、引くに引かれぬ坊主の頭”――どうしてお坊さんは髪が短いのかという素朴な疑問を解いていきますぞ。