ちょっといい話

第146話 無理やり好奇心

挿し絵  11月12日(土曜)、長野市内で約2時間のお話を頼まれた。午後1時からだったが、折しも紅葉シーズン。朝東京を出て、2時間緊張しっぱなしで法話してから、渋滞の高速道路を5時間以上もかけて帰って翌日法事!……では身体がもたないので、「行っちゃ嫌!」という家内の言葉に後ろ髪を引かれながらも前泊することにした。
 せっかくだから、ペンションに泊まってオーナーと話がしたいと思ったが、ネットで検索しても一人で宿泊できそうな所はなく、仕方なく市内のバイパス沿いのビジネスホテルを予約した。
 ホテルに着いたのは夕方6時半、アルプスからの冷たい風が夕闇せまる街を通り抜けていた。部屋で一息ついて夕飯を食べようと思ったが、ホテルのレストランは朝食バイキング専用で開いてない。そこで、ホテル前にある洋風居酒屋「華の舞」にパソコン片手に参上することにした。

 時刻は7時を少し回ったところ。案内されたのは一辺が4メートル位ある囲炉裏状テーブルの角の席。早速地ビールと3品ほどのおつまみを注文し、宗派の雑誌用の原稿を書き出した。
席について20分ほどすると私のすぐ横、90度の角度の席に男性が一人案内されてきた。私との距離は1メートルない。彼がオーダーしたビールとおつまみ3品という数は私と同じ。彼はパソコンではなく、手帳を取り出して仕事の段取りを確認していた。
 私はビールに続いて、地酒を注文して、書きかけの原稿を保存し、パソコンの電源をおとすと、運ばれてきた辛口の冷酒をグイと一口飲んでから、意を決して彼に尋ねた。“意を決して”という表現は決して大袈裟ではない。同じ日に、居酒屋で一人同士。それも隣の席である。町のラーメン店で食事をするのとは違う。何か話しかけなければ不自然である。だから、これではいけないと、勇気を出して、聞いた。

 「失礼ですが、このお店のトイレはどこにあるかご存じですか?」
 「いや、私はこのお店は3回目なんですが、トイレには行ったことがないので……」
 後から考えてみれば、居酒屋へ来てトイレに行ったことがないというのは、大切なメッセージだったのだが、その時の私には、それが何を意味するか全くわからなかった。

  だめだ、とても1回じゃ書き切れない。この後の世にもヘンテコリンな展開の実話は次回“相手への興味、関心、好奇心!”で。