ちょっといい話

第148話 人に聞こえる独りごと

挿し絵  密蔵院で3年半にわたって「話の寺子屋」の講師をしてくださった村上正行さん(今年6月に亡くなった)は、大正13年生まれ。早稲田大学法学部から海軍へ。そして敗戦。焼け野原の東京で何気なく見た新聞の"NHKアナウンサー募集"の広告で、何千倍の難関をクリアーして昭和22年にNHKへ。配属先は松山放送局だった。その頃のことだ。
 ご本人いわく
 当時私はなんの取り柄もありゃしませんでした。いくら顔が良くたって、当時はラジオしかないから、顔じゃ勝負できない(笑)。声だけでも良ければまだいいものを、残念ながらガラガラ声。それでも男一匹、これにかけては誰にも負けないというものが欲しかったんです。
 ……で、ある時思いついたんです。自分の周りの人全員を誰よりも好きになってやろうと。これなら、他に取り柄のない私にもできるんですよ。
 そして村上さんはおっしゃる。
 よくパーティーなんかで、誰とも話さずに一人でポツンとしている人がいるでしょう。そんな人に限って
「どうして、みんな私のところへ来ないんだろう」
と思っているものです。そういう人は、独りごとのように、それでいてまわりの人に聞こえるように
「ああ、なんだかこの会場、暑いわね。私、この指輪脱ごうかしら」
なんて、大きな指輪をこれ見よがしにひけらかしたりするものです。なんのことはない。その人がまわりの人への関心がないだけなんです。
自分が他の人に関心が持てないのに、自分には関心を持ってもらいたい……そんな人がいるものです。自分に関心を持ってもらう方法があるとすれば、自分から周囲の人に関心を持つ、それだけだと思うんです。
 私はこの話を聞いて、それまでの自分がどれほど周囲に関心を持っていないか再確認した覚えがあります。お坊さんという仕事がそうさせたとは思っていませんが、檀家の方が住職である私に気を使ってくれることに、慣れきっていたのです。

 そういうわけで、前回2回の世にも奇妙な無理やり好奇心の状況になったのでした。
さて、次回は“八方塞がり人生からの脱出”でいきます。
「自分のやっていることの意味」をお説教っぽく仕立ててみます。お楽しみに。