佐藤俊明のちょっといい話

第34話 運

運  挿絵

 昔から、事を成し遂げるに必要な条件として、運・鈍・根、つまり幸運と愚直と根気の3つが挙げられている。

 「運去って金、鉄となり、時来たって鉄、金となる」という言葉がある。ひとたび運に見放されると、持っていた金も鉄の値打ちしかないものになってしまう。バブルが弾けて金を鉄にしてしまい、嘆き苦しんでいる人は私の周囲にも少なくない。

 逆に「時来たって」幸運に恵まれ、時の勢いに乗ると、鉄も金となる。税金を取られるばかりで、さっぱりメリットがないと思っていた土地が思わぬ開発の波に乗って高く売れ、おかげで億単位の富を得た人のいることもまた決して珍しいことではない。
人間の成功や失敗は全部が全部運によるものでないことはもちろんだが、運に恵まれなかったら到底成し遂げ得なかったのであろうと思うこともあれば、なんてあの人は運が悪い人だろうと思わざるを得ないこともある。

 ところがこの運、実は「運は天にあり」で人間の力ではどうすることもできない。そうだとすれば、天意に背かぬように、天意に叶うように振る舞うことが肝要である。
 人間はどんなに能力にすぐれていても、どんなに偉くとも、ただ独りでは生きられない。天地万物の恵み、大勢の人々の愛情と協力に支えられて生かされているのである。だから自分本位の生き方は自然の理に反するものであり、自他共々に生きることこそ天意に添うものである。

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