佐藤俊明のちょっといい話

第44話 他を利する

他を利する  挿絵

 満員のバスに、途中から一人の女性が大きな荷物を提げて乗ったが席がない。誰も立ってくれない。
運転手はしきりにバックミラーを見ていたが、たまりかねたとみえて、
「奥さん、席がなくてお困りですね。僕が立ちますから、ここへお掛けください」
と。
 次に乗客に向かって、「皆さん、僕が席を離れるとバスはいつまでも動きませんが・・・」と言ったので、乗客は驚いてあちこちで席を譲ろうと立ち上がった。
 運転手は、「そんなに立っていただかなくとも御一人で結構です。奥さん、お掛けなさい。サンキュー」といって運転を続けたというアメリカの話。

「修証義」に

「愚人謂(おもわ)くは利他を先とせば、自(み)らが利省かれぬべしと。爾(しか)には非(あら)ざるなり。利行は一法なり。普(あまね)く自他を利するなり。」

とある。
 人の為にすれば自分が損をする。そんな考えで誰も席を譲らないとバスという社会の動きが止まってしまう。
「利行は一法なり、普く自他を利するなり。」で、自他共々に御利益にあずかることができるのである。
 人間は社会的な動物で、時には自らの利益を度外視して社会に奉仕することに生きがいを感ずるものであり、それによって社会は進展するのである。

 十数年前、タイにあるカンボジア難民キャンプへ視察に行ったとき、日本人のボランティアの姿が見えず恥ずかしい思いがしたものだったが、今回、阪神大震災におけるボランティアの方々の素晴らしい活躍をみて、心温まる思いである。

※このお話は1995年4月にかかれたものです。

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