佐藤俊明のちょっといい話

第69話 落葉樹と常緑樹

落葉樹と常緑樹 挿絵

 古代エジプト人は、永遠の生命を希求し、不滅の棲家としてピラミッドを造った。その努力の並々ならぬこと、スケールの大きいことはおどろくばかりである。しかし、形のある限り、やがてはこわれゆくものである。

 この点、対照的でまことに興味深いものは伊勢神宮の遷宮である。
ご承知のように伊勢神宮は20年ごとに建て替えられる。
そのために昔ながらの姿を今日に伝えており、私たちは太古の姿を今日拝することができるのである。
これはかつてエジプトに在勤した外交官桑原鶴氏の指摘である。

 古代エジプト人の発想を落葉樹とすれば、私ども祖先の発想は常緑樹である。落葉樹は、春一番に葉を出し、秋一時に枯れ落ちるのだが、常に新陳代謝している常緑樹はその名のとおりいつも青々としている。
 古い様式そのままに新しく建て替えようとすれば、日本の気候風土では20年という時の流れはちょうど手ごろな長さであろう。
 ここに私どもの祖先の、すばらしい叡智を見ることができる。

 どんなに大きなものをどんなに堅牢に造ったにしても、やがてはこわれてゆくピラミッドに比較して、伊勢神宮の20年ごとの遷宮を考えるとき、有限の生命が無限につらなる道は、有限に徹する以外にないことであり、私どもは一挙手一投足が永遠の道を開くつとめとなるよう精進しなくては、と思い知らされるのである。

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