佐藤俊明のちょっといい話

第70話 姿勢を正しく

姿勢を正しく 挿絵

 人間の生命は吐く息吸う息、呼吸にあるので正しく生きるには呼吸を正さなくてはならぬ。
 正しい呼吸には正しい姿勢が必要で、正しい姿勢の基本は腰にある。
 腰は人の体の中心で、びっくりした途端にまず抜かすのも腰である。だから何事も本腰を入れてかからなくてはならぬ。
 腰が高い、腰を据えろ、などといわれ、相撲も三役ぐらいになると専ら腰をおとして寄り切るものが多い。
 このように大事な腰なので、武芸ばかりでなく、商人もまた腰を低くするようにいわれてきた。

 知り合いの商店主が
「高校出の青年を店員に採用しているが、ふだんスポーツをやっているくせにどうも腰が高くて困る。これではせっかくのスポーツが生活に生かされていない」
とこぼしていたが、腰を低くして重心を安定させないと呼吸筋である横隔膜が充分はたらかず、したがって深く静かな呼吸ができず、ちょっとした外部の刺激にも心が乱れてすまうのである。

ドイツの哲学者ナトルプは、
「正しい姿勢を指導しない教育はホンモノではない」
といっているが、これほど大切な姿勢のことを今日の教育はどれほど重視しているのであろう。
 とにかく、乗り物の中でも街の中でも姿勢の悪い人が実に多いのにおどろく。
姿勢と呼吸をととのえるのが坐禅だが、昔から剣禅一味といわれるように、スポーツや芸事と禅の関係もまたきわめて深いものだが、さらには生活と禅の関係をより密接にする創意と工夫が必要である。

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