佐藤俊明のちょっといい話

第74話 二河白道

二河白道 挿絵

 浄土門に二河白道のたとえがある。

 浄土往生を願う者がに進むと水火の二河に出会う。
火の河は南、水の河は北、ともに深くて底なしである。
この二河の中間に細い白道があって、水火こもごも押し寄せている。
また群賊悪獣がうしろから迫ってくる。
この白道を進んでゆくと、東岸に声があって、

「何時この道を進め、必ず難をのがれるであろう」

と。また西岸に

「汝、一心正念にしきたれ。われは汝を護らん」

と呼ぶ声がある。
 そこで疑わず白道を進んで西岸に達すると、諸難を離れて善友とともに楽しむことができたという。

 この二河をイデオロギーに仮定してみると、左右いずれにも偏らず、溺れず、懐かれず、真ん中の白道を進んでこそ理想の彼岸に到達できるといえよう。

 90年、91年は東欧諸国にとっては正に激動の連続だった。
 これまでの桎梏を離れ、解放の喜びを噛み締めている人々の映像は、火の河に落ちて長い間苦しんできた人々がいまようやく白道に這い上がってホッとしている姿ではないか。

 また日曜日の夜に連続放映されていた「翔ぶが如く」は私たちの祖先が、二河に足を踏みはずさずに白道を進むことによって維新の大業をなし遂げる歩みを描いたものである。
 尊皇攘夷と佐幕開国の二大勢力(二河)に別れ、20年もの間民族のエネルギーが消耗された。その長い抗争の結果得たものは尊皇攘夷でも佐幕開国でもなく、実に尊皇開国だった事実を忘れてはなるまい。

※ このお話は平成2年に書かれたものです。

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