佐藤俊明のちょっといい話

第81話 ラクダの分配

ラクダの分配 挿絵

 アラビアの昔話。

 年老いたアラブ人が死ぬ前、三人の息子を枕もとに呼び寄せ、
「わしが死んだらラクダをお前たちにやるが、長男は1/2、二男は1/3、末っ児は1/9だ」
といいました。
ところがラクダの数は十七頭だったので三人は分配について口論をはじめました。

 そこへ旅の老人がラクダに乗ってやってきました。
そして兄弟喧嘩の訳を聞いて、
「そうか、それじゃわしのラクダを差し上げましょう。これで分けられるだろう。」
と言いました。

 父の残したラクダに一頭加えると十八頭になりましたので、長男は九頭、二男は六頭、末っ児は二頭で遺言どおりの比率に分けられました。
 旅の老人は、
「これで仲よく分配できたわけだ。一頭余ったね。これはもともとわしのものだ。じゃ、さようなら」
と言って、ラクダに乗ってどこかへ立ち去ったということであります。

 十七頭を父の遺言どおりに分けようとすれば長男は1/2だからほんとうは8頭半、二男は1/3だから、5.7頭。末っ児は1/9なので、1.9頭ということになります。
 しかし、さいわいなことに旅の老人のおかげで、みな四捨五入の形で端数を繰上げた頭数のラクダを貰ったので三人とも満足しました。
 といって旅の老人のラクダにはなんら被害を与えなかったので、めでたし、めでたし、ということであります。

 割切れないものを割り切れるようにする知恵は、アラビアだけでなく、どこにも必要なことであります。

前の法話
佐藤俊明のちょっといい話 法話一覧に戻る
法話図書館トップに戻る