佐藤俊明のちょっといい話

第92話 人間の好時節

人間の好時節 挿絵

春、百花あり。
秋、月あり。
夏、涼風あり。
冬、雪あり。
もし、閑事の心頭に挂ることなくんば、すなわちこれ人間の好時節。

 これは、禅門で有名な「無門関」にある偈(詩)です。
 春は百花爛漫として咲き綻び、秋は月が美しい。
 夏は涼しい風が吹き、冬はすがすがしく雪が降る。
 つまらぬことにあれこれ思い煩うことがなかったら、春夏秋冬、いつでも人間にとって好時節である、というのである。
 春夏秋冬、それぞれ趣があって、誠に結構な四季の移り変わりですが、それなのに嘆き悲しみ瞋り、悩むのは一体どういうわけでしょう。
 それは、余計な分別、要らざる計らいがこころの中にモヤモヤしているからで、これさえなければ春夏秋冬いつでもすがすがしい好時節であり、極楽浄土だというのであります。

 では、いらざる分別や妄想をなくするにはどうするのか?
それは一切をみ仏にお任せすることであります。
道元禅師の「正法眼蔵生死」に、

ただ我が身をも心もを、はなちわすれて、仏のいへになげいれて、
仏のかたよりおこなはれて、これにしたがひもてゆくとき、ちからをもいれず、
こころをもつひやさずして生死をはなれ仏となる

とありますように、一切を仏にお任せすればおのずからそこに人間の好時節が訪れてくるのであります。

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