佐藤俊明のちょっといい話

第94話 六道

六道 挿絵

 六道とは、私どもが生活している心のことである。
 地獄は最低最悪、苦しみの極限の世界、餓鬼はいくらあってもまだ足りない、まだ足りないとイライラ、ガツガツしている貪りの世界、畜生は自分で自分をコントロールすることができず、本能のままうろつく世界、修羅は争いの世界、人間は苦楽相半ばする世界、天上はいわば極楽だが、しかし、よろこび楽しみの長続きしない世界のことで、私どもはこの六道を駆け巡って生活しているのである。

 子供に例をとってみると、野球の試合に勝って意気揚々、天上界に登った気持ちになって家に帰ると、
「こんな遅くまでなにしてた」
と叱られる。
"せっかくいい気分になって帰ったというのに、少しばかりおくれたからってなんだ"と腹を立てて途端に地獄に堕ちる。
挿し絵  しかし、“遅くまで無断で遊んで来たんだから親も心配するのはあたり前だ”と反省して人間となる。
 それにしてもお腹が空いてたまらん。
 戸棚をあけて餓鬼のようにパクついていると妹がやってきて、
「おかあさん、おにいちゃんが…」と注進に及ぶ。
「余計なことを言うな!」と蹴飛ばして修羅となる。
 満腹するといい気持ちになって勉強も忘れてグウグウと、コントロールを失って畜生となる。
 このように一瞬一瞬定めもなく地獄から天上までの世界を駆けずりまわっているのが私どもの日常である。
 六つの世界のどこへでも定めなく趣くという意味で六道のことを六趣ともいう。

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