佐藤俊明のちょっといい話

第98話 便所掃除

便所掃除 挿絵

 ある山寺に一人の学者が泊まった。
翌朝出発しようとしたとき、見送りに出て来た小僧を見て学者はびっくりして言った。

「そなたは昨晩見た時には死相があらわれていて、3日のうちに死ぬる運命だった。それを言ったとてそなたにはなんの利益にもならぬことなので、黙っていたのじゃが、今そなたを見ると不思議なことに80まで生きる顔になっている。そなたは昨晩から今朝にかけて何か途方もない善いことをしたのではないか。包まず話をしなさい。」

小僧は驚いて、
「いいえ、別に善いことはしておりません。」

「いや、なにか善いことをしたはずだ」

「すると便所掃除でしょうか。昨晩便所に行ったらひどく汚れておりました。ああきたないと思った時、ふと母の顔が浮かんだのです。私が赤ん坊の時、母はきたないとも思わず、汚れを浄めてくださったのだと思いました。それで私は便所掃除をしました。そのほかは善いことなどしてません。」

 学者は
「それだ。そのためそなたは80まで生きることになったんだ」
といって合掌して小僧を拝んだという。

 これは今から350年前の人、鈴木正三の「驢鞍橋」にある話です。
 西有禅師は20代の頃、当時有名な手相見から30で死ぬといわれ、それから猛烈な修行生活にはいったがこの話に感動し、爾来便所掃除を欠かさなかった。
 そして長寿はそのおかげと堅く信じていた。

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