菅野秀浩のちょっといい話

第6話 おかげさまⅠ

おかげさまⅠ 挿絵

 お釈迦様によって説かれた仏教のうち、殊にシルクロードを渡り中国・朝鮮半島を経て、日本にもたらされた北伝仏教は、大乗仏教と称され、大きく花開き、その国の生活そのままが仏教的な教義に結び付くという、その国の民族性となって、定着し展開した。

 例えば、「慈悲」は「南無(帰依する)」に変化し、「おかげさま」として、和製の言葉としても、実践行としても定着した。

 「おかげさま」という言葉は、日常茶飯事に耳にし、誰もが何げなく使っているが、日本に仏教がもたらされて以後、この言葉ほど、仏教思想が定着し、完全に消化され、そして純日本的に完成したものはないと思う。

 「おかげさま」は自分一人では生きられない。必ず自分以外の他によって、生かされていることに感謝し、更に他の存在そのものが、自分の価値観を向上し、人間性を高めていることに気づき、「おかげ」であることに、敬称の「さま」も付けて尊ぶのである。

 仮に介護を受ける老人がいる。その介護に携わる人は、この老人が自分の前にいる「おかげ」で、介護という尊い行為ができるわけで、「介護させていただく」という謙虚なこころが自然と芽生える。

 この「させていたただく」行為の積み重ねが、菩薩道を歩くことにつながり、仏への完成が約束されるのである。

 だから「おかげさま」こそ、仏教の主張「慈悲」なのである。

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