菅野秀浩のちょっといい話

第30話 新幹線症候群Ⅲ

新幹線症候群Ⅲ 挿絵

 医師や看護婦さん、ソーシャルワーカー、主婦の方と結成した「生と死を考える会」の執行部を10年目で退任させて戴いた。

 理由は、ふと思いついて始めた、新聞の切り抜きが原因である。その年の1月元旦より、ニュースやノンフィクションは別にして、「死」という言葉が、どのくらい紙面に載るかを、スクラップしてみた。

 あるある。曰く「死を看取る」「死を考える」「よりよい死を」「死の準備」「死後の処し方」「安楽死」「尊厳死」「老いと死を」「死の医学」「脳死」「生と死を問う」等など、死のオンパレードである。

その内容は他人事で、死を体験し、死後を見たかのようで慄然とする。

 日本人はいつから、死ぬことばかりを考え、語るようになったのか?

 半月で、スクラップは一冊になった。

重く心に残り、「生と死を考える会」を主催する自分も、その仕掛け人の一人と気が付いたとき、これはいけないと思った。

 大まじめで、時代の先を歩く一人として、「死の準備」の啓蒙には、かなり早くから参加して来たし、自信もあった。

 「辞めよう」と思った。

 死は誰にも語れないし、語る必要もない。命は人それぞれ、命あるかぎりの「安楽生」や、「尊厳生」ならばあると断言できる。「安楽死」や「尊厳死」があるはずがない。

 途中下車より、無心に生涯を翔るべきだ。

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