菅野秀浩のちょっといい話

第37話 本物を識る

本物を識る 挿絵

 ブランド・ブームといわれて久しい。

 東京銀座の街は、外国の一流店が団体で越して来たようで、つい先日もフランスの老舗が開店し、マスコミが大挙し、さながらスーパーのバーゲンセールのごとき感で、大方の識者の顰蹙(ひんしゅく)をかった。

 何時、大層なブランド嗜好になったのか?急に日本人の感覚が洗練されて、本物が持つ良質さとセンス、更に繊細なエレガンスを会得し、身につけたかはどうも怪しい。

 円高とバブルの余波で、金銭と見栄で買い漁っているのが本音かもしれない。

 しかし、反面では自分の物として手に持つということは、手段は別でも、本物を知るというか、本物が持つ質感や仕事振り認識する上では、実に意義ある賢明な事と言える。

 ならば、最大の愛着を持って、至便に臆せず使いこなすことである。

 市井の名もない職方の、洗練された手仕事や技術というか味や手触りの伝承は、使い手は充分に理解し納得し、使いこなし、使い抜いて、更に高度なさりげない批評眼を持っていることが極めて重要である。

 使い手がずぼらで、本質の良さを理解しないと、職方は一人よがりで技が荒れたり、細工の上に更に細かい気配りの気負いと身上が覇気を失い、つい疎かにされてしまう。

 現代はまさしくその危機の時代で、ブランドの嗜好だけに終わらず、本質を見極める事が人気の究極で、価値観も高まるものだ。

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