菅野秀浩のちょっといい話

第82話 密教の仏9 勢至菩薩Ⅱ

密教の仏9 勢至菩薩Ⅱ 挿絵

 一周忌は、大勢至菩薩を本尊として修す。

 前項で述べたように、阿弥陀如来の脇侍仏として、観世音菩薩と共に極楽浄土への往生を促すことを徳目とする。
ちなみに観世音菩薩は百ヶ日忌の本尊であり、慈母として慕われ、四十九日忌に仏界へ旅立たれた(旅立ちをして既に五十日も過ぎると、旅馴れし、極楽へ向かうこともしばし忘れる)精霊を、大慈大悲の大らかな慈愛で包み、寄り道したり、迷路へ迷い込まないように、優しく促し、正しい路を指し示すのである。

 勢至菩薩は慈父である。観音さまのように慈しみと優しさは、表に現れない。旅立ちをして一年も経ち、慣れきった(初めてパスポートを得て海外へ行き、不安と臆病で添乗員から離れなかった者が、二度三度と出掛けるうちに度胸が付くのか、自分勝手な行動をとり始めるのと似る)極楽への旅行者を、厳父のごとく諌め、智慧溢れる道理で諭して、輝く光明に照らされた極楽への真っすぐな路を、力と勢いを持って導くのである。

 仏教者の願いと祈りは、精霊が極楽へ往生することにある。後を振り返ったり、寄り道は成仏の妨げである。
この万人の願いは、顕密を問わず共通である。一日も早い、成仏を願うのである。

 勢至菩薩の祥月日は、旧暦毎月二十三日である。この日の月の出は明け方であることから、全国津々浦々で講が立ち、月の出を待って寺に篭もる「月待ち篭り」が流行した。

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