菅野秀浩のちょっといい話

第92話 密教の色彩Ⅰ

密教の色彩Ⅰ 挿絵

 仏教のもつ色調は、本来は彩色豊かで、金色や銀色に輝く美しい世界を持つ。

 殊に密教(真言宗)は、宇宙のあるがままを素直に肯定するため、極彩色の世界にその教えをあますことなく包み込み(様々な色彩も全て仏慧=教えとして肯定する)表現する。

 例えば、法事や祈願のおりの僧の色衣がそうで、緋、紫、萌葱(もえぎ=薄緑)、黄色(おうしき)、浅葱(あさぎ=薄水色)等、更にその上に着けるお袈裟は、一段と華麗で荘厳なもので、金襴の金糸銀糸の織りや刺繍は、あでやかで美しく、王朝絵巻の世界に身を投じているような気さえする。

 真言宗では根本とする二つの経典(大日経・金剛頂経)によって教えを説くが、それぞれに幾何学的に図案化されて、極彩色絵画として二つの世界(大日経所依は『胎蔵曼荼羅』、金剛頂経所依は『金剛界曼荼羅』)で表現され、その教義は曼荼羅として展開される。

 密教の色彩は、この曼荼羅にあますことなく描きだされ、極彩色の世界は、宇宙を凝縮した大日如来(大いなる生命)の「大原理=理」と、大いなる生命を生き抜くための信仰生活の「智慧=智」を、汚れない「白」とし、共に蓮台に住す四仏(胎蔵四仏=宝憧如来・開敷華王如来・無量壽如来・天鼓雷音如来 金剛界四仏=阿閦如来・宝生如来・阿彌陀如来・不空成就如来)を、「赤・黄・青・黒」で表し、その教えや意義を五色に託して展開していくのです。

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