長谷川正徳のちょっといい話

第80話 別れのときは必ずくる

別れのときは必ずくる 挿絵

 人間が死ななければならないものである限り、死を忘れ過ぎた生活が人間に深い幸福をもたらすとは思われません。そこで、宗教的生き方というものが非常に重要になるのです。宗教的生き方の極意ともいえるものは、死と対面することによって、ひるがえって生を充実してゆくという生き方なのです。

 アメリカの精神科医エリザベス・キューブラー・ロスは、死を目前にした数百人に面接し、人々が5つのステップを踏んでいくことを発見しています。

 死が近く訪れると知った人が示す第一の反応は「否認」である。そんなはずはない、誤診に違いないと思い込もうとする。第二は「怒り」。「なぜ、よりにもよって私が、今死ななければならぬのか」と周りに怒りをぶつける。第三は「取引」。周りの人や神と何かの約束を取り交わして、死を少しでも先に延ばしてもらおうとする。第四は「うつ」。すべてを失わねばならぬことを自覚して悲しみに沈む。これらの段階を経て、多くの人が第五の「変容」にたどりつき、運命を平静に受け入れられるようになる。ところで上智大学のデーケン教授は、さらに死後を信じる人の場合には「期待と希望」という第六の段階があるともいっています。

 現代人が自分の死に直面した場合、非常に弱いのは、このデーケン教授の言う「彼の世」の信仰が消えてしまっているからではないでしょうか。さらには、現代文化の中に死に対する心構えが文化形態として形成されていないからではないでしょうか。別れのときは必ずやってくるのです。

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