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第58話  聞け!物どもの声


挿し絵    先日、家内(結婚20年になり偉くなったので最近は"お"をつけて、オッカナイと呼んでいる)の前で、これまた二十数年前に父が教えてくれたことを話す機会があった。

   ある時、私は父にたのまれて本尊さまにご飯をあげた。
用事をすませ本堂から長い廊下をもどり住職室の前を通ると、中から父の
「本尊さまの前のお花、下げたか?」
という声が聞こえた。
「えっ?だって、ご飯をあげてこいって言ったんじゃないの?」
と私は住職室に入った。
「なんだ。相変わらず、言われたことしかやらないのか」
「……」
「本尊さまの前にある花の声が聞こえなかったか?」
「花の声?花が話すなんて、シャレにもならないよ」
「違うよ。あの花が"私はもうしおれてきたから、ここからさげてちょうだい"って言ってるのが聞こえなかったか、って聞いてるんだよ」
「ゼンゼン聞こえなかった」
「もう一回本堂へ行ってこい!」

   本堂へ行ってみると、なるほどさっきは気づかなかったが、花はかなりしおれていた。そばに耳を寄せてみたが、何も聞こえなかった。当たり前である。こういうのは、心の耳で聞かないとだめなのだ。それ以後私は、色々なものの声が聞こえるようになった。
   廊下に落ちている糸くずが懇願する。
「掃除機じゃ取れないのよ。指でつまんでごみ箱へ入れてちょうだい」
なぜかいつも女性言葉だ……
   塀の上に酔っぱらいが置いていった空き缶がぼやく。
「ここじゃ、アカン、アカン!空き缶入れに入れておくれやす」
どうしても妙な関西弁になる……

   気になるということは、その物が私に何かを語りかけていることなのだ。その真意をしっかり汲んでいけるようになりたいと思う。
さて、上記のような話を(オッ)家内にしてから数時間がたった。パソコンの前で原稿を書いている私に家内がコーヒーを持ってきてくれて、住職室を見回して言った。
「あなた、この部屋にいて、散らかった紙や、広げたままの辞書や、半分開いてる引き出しの声が聞こえないの?」
「えっ?ああ。あのね、他にも、あんまり沢山のものが、同時に話すから何を言っているのかよく分からないんだよ」
……それから2週間たった現在、まだ大掃除はしていない。

   さて来年は、順司さんからのリクエスト ”一般的に”はどこまで効力があるか?
をいただいて、仏教語の世間からまいります。出世も、もとは仏教語なんですよ。

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