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第64話  ニクダイワニ?


挿し絵    中学3年生になる娘とスーパーに買い物に行った。カゴを下げて通路をブラブラ。
どこでもそうだが、特売品は棚にのせずに、通路に箱を積み上げて、派手なポップ字が踊っている。
私はあまり缶詰は食べない(“鮭の中骨”は除く)。だから、どんな特売をしていようと、缶詰売り場はいつも素通りなのだ が、この日は、娘が私の袖を引っぱった。

「ねえ、お父さん。ニクダイワニって何?」
45年間、聞いたことがない日本語である。つまり初めて聞いた言葉だった。
「えっ?ニク……なに?」
「ニク、ダイ、ワ、ニって書いてあるよ」
彼女の視線の先を追っていくと、特売品のまだ封を切っていない4段重ねの箱の上にその中身とおぼしき缶詰が山積みされている。
いったいニクダイワニなる食べ物の正体は何だろうかと、一つ手に取ってみた。

   見れば、缶の蓋に印刷されているのは肉の煮物の写真だった。でも、なんでこれがニクダイワニ?……歳をとった私にとって、茶色の筆文字で書かれていた品名は、これまた茶色のドロドロ汁にまみれる肉の写真に混じり合って判別できなかった。
   そこで、下にあった段ボールの横を見た。書かれてある字を見て、驚いた!そこには確かに娘のいう「肉・大・和・煮」と書かれているではないか!
それから数秒後、堪えきれぬほどの笑いがこみ上げてきたのは言うまでもない。店を出るまで顔を真っ赤にした親子連れを、周囲の人はいぶかしげに振り返っていた。

   私は店を出てから娘に言った。
「一休さんの“このはし、渡るべからず”って話があるだろ。あれは、“はし”という言葉を自由自在に読み替えできる柔軟な発想を持ちなさいっていうことを教えてるんだよ。だから、お前はすごいんだよ!それにしても、ニクダイワニは……ギャハギャハギャハ」
娘は「絶対に人には言わないでよ」と言った。
私は“言わないよ”と言った。が、書かないとは言わなかったもんね〜。

   さて、次回は「採用最終合格の基準」です。村上正行アナから聞いた、アナウンサーの最終選考の目の付けどころ。とっても良い話です。
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