佐藤俊明のちょっといい話

第60話 生死事大

生死事大 挿絵

 弘法大師の言葉に

“生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、
 死に死に死に死に死んで終わりに冥し”

という実に印象的な一句がある。
 人はみな生まれ変わり死に変わりを繰り返しているが、生と死の本質的な意味に目覚めようとしないという警告である。

 私どもは目先の事となると、案外詰まらぬことにもいろいろ心を砕き、究明しようとするのだが、肝心要の生と死の根本問題には眼を向けようとしない。だから、生と死の本然の姿は日進月歩の今日でも依然として深い深い謎に包まれている。

 道元禅師は、“修証義”の冒頭に

“生を明らめ死を明らむるは仏家一大事の因縁なり”

と、生と死の根本問題を明らかに達観する事が仏家一大事の因縁、つまり真実の生き方を求めるものにとって最大の課題だと述べている。

 その重要課題、日頃はあまり触れまいとしているが、否でも応でも眼を向けざるを得ないのが親しい人との死別であろう。
親、連れ合い、子供、孫の死等々、二度と再び相会うことのできないそれらの人々が、何処でどうしているのか、一片の消息とてない。
 生き残った者にとってこれほど遣る瀬無い空しい思いにさいなまれることはないであろう。
この過酷な運命に出会い、眼を背けずに真面にこれを乗り越えてこそはじめて私どもは人生の正しい生き方を学びとってゆくのである。

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