菅野秀浩のちょっといい話

第28話 新幹線症候群Ⅰ

新幹線症候群Ⅰ 挿絵

 「新幹線症候群」は、尊敬する先輩吉田生而先生の造語である。症候群は、普通はカタカナ語でシンドロームと表現され、もとは医学用語で身体に同時に発生した一連の症状というが、今日では「……の傾向」とか「……的性向」という意味に用いられると辞書にある。

 だから、「新幹線症候群」は、新幹線に乗ったお客が同じような思考状態に陥るように、社会においても同傾向の思考性癖をもつ症状が表れると言うことであろう。

 昭和38年新幹線が初めて、東京〜新大阪間が開通したとき、わずか6時間という早さは異例中の驚愕で、朝一番で出掛け、会議をすませ最終で帰るというフットワークの軽さは、出来るビジネスマンの誇りであった。

 しかも、現在は新幹線網も九州、北陸、東北まで延び、東京と新大阪間は最短2時間半、飛行機の搭乗手続きや空港までのアクセスを考えると、航空機よりも明らかに迅速である。

 しかし、新幹線の使命は、安全にいかに早く目的地に到着することにあるとすれば、乗車即目的地に到着が理想である。

 近頃は、途中停車の多い号車に乗り合わせると、時間の無駄をしたように感じる。

 この乗車即目的地下車の「結果オーライ的傾向感覚」が症候群の兆しで、教育、スポーツ、人生など、全ての社会行動にある。

 乗る前から降りることを考える「新幹線症候群」は、ゆとりと潤いのない、無粋で非情な社会の、異常症状といえる。

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