長谷川正徳のちょっといい話

第85話 日常の心掛け

日常の心掛け 挿絵

 ある夜のことです。自転車に乗って信号待ちをしている私の横に、いかにも先を急いでいると見受けられる急ぎ足の親子が並びました。左右をジッと見ていた母親が、「車は来ないから、さっと渡ってしまうネ」 といい置いて、おぶっている赤ちゃんを気遣いながら、赤信号を急いで突っ切ってしまいました。

 残された五、六歳に思えるその女の子は、信号が変わるのを待っていました。大通りを渡り終えた母親は、大声で「夜は信号が長いんだから大丈夫、車がこないうちに早く!」と子供をせかしています。

 こちら側の子供は、「ママ、ダメだよ。信号無視だよ」といいながらオロオロしています。傍で見ている私は、いつその子供が母親の言葉におされて渡ってしまうかと、ハラハラしながら親子を見ていました。

 そのうち信号が青になり、その子は左右を確かめる間もなく、母親の方へと駆け出していきました。それは、ほんの数分の事でした。信号に慣らされていて、夜間の信号の長さが通常より長くなる事を知っている大人と、教えられた事を懸命に守ろうとしている無邪気な子供のやりとりです。

 別段事故があったわけではないのですが、子供を持つ母親として、人事ではなく、考えさせられる光景でした。ルールに従って日常を過ごす事が何となくばかばかしく思われがちなこの頃ですが、何か事があってからではもう間にあいません。これに類した事も日常多々見うけられます。ほんのちょっとした日常の心掛けが、大きな災難から身を守る最大の防御ではないでしょうか。皆さん、何か事をする前に、ちょっと心を置いてください。

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