ちょっといい話

第103話 天井の穴

挿し絵  猛暑の昨年8月のことだった。
本堂へ行くと頭上の天井裏から、カチャ、カチャと不安げな足音と、ピィ、ピィと泣く(「鳴く」ではない。それほど悲痛にひびいていた)声がした。本堂の屋根の隙間から鳩が出入りしていることは知っていたので、鳩であることはすぐわかった。
きっと小鳩が巣から出て迷子になったのだから、親鳩が助け出すだろうと放っておいた。

 しかし、翌日も、その翌日になっても、私の出す咳払いや鐘の音に反応しては泣き、トボトボと私の頭上の天井裏を歩いていた。日に日に鳴き声が弱くなっていく。
仕方なく、天井の点検口に脚立をかけて、懐中電灯で天井裏をのぞいて驚いた。わずか10センチにもみたない二重に張られている天井の隙間にその姿があったからだ。本堂の中央部分でもあり、親鳩が出入りしている穴から外の光はとどかない。真っ暗闇の中である。これではダメだと、救出作戦を決行することにした。
作戦とか決行とか大仰な書き方をしたのには訳がある。小鳩の声がする場所は、手も届かないし、他の部分より5センチほど下がった場所だったのだ。生まれて間もない鳩がよじ登れる高さではない。つまり、下から天井を壊して助ける以外にすべがないのだ。

 午前10時、既に本堂天井付近の気温は30度というサウナ状態の中、作戦(というより作業だが)を開始。石膏ボードの天井を、鳩をぶちのめさないように、木槌で壊していく。穴からの光に、小鳩はひっきりなしに鳴き続ける。
ガンガンガン・ピィピィピィ、ガンピィガンピィ……。ついに、鳩が開いた穴からひょいと首を出した。

つづく……