ちょっといい話

第111話 困ってるんです

挿し絵  今年の1月下旬のことである。知り合いのお寺から、ウキウキするような相談があった。
32歳の女性ダンサーのTさんが、京都でお坊さんのお経を聞いて鳥肌がたつほど感激。しかれば、そのお経で踊ってみたい!すでに京都で2回の公演を終えている由。近日東京の吉祥寺のライブハウスで東京公演をしたいのだが、ダンスと一緒にお経をやってくれるお坊さんはおらんかねえ?とのことで、白羽の矢がたったのが、毎月聲明しょうみょうライブをやっている私だったのだ。
「相談にのってあげて欲しいのですが」との言葉に“うん、いいよ”と軽い返事。じつはこの軽さが後々エライことというか、人生模様の機微を体験することになろうとは、お釈迦さましかご存じなかっただろう。

 ダンサーのTさんが密蔵院にやってきたのが1月31日だった。
事前に今回の企画書と彼女のHPを拝見。思わず、ほうと目玉を丸くした。じつは彼女は女優で、それがこうじてダンサーに、さらに発展してヌードダンサーとして活躍しながら、独自のパフォーマンスを展開中なのだ。
 訪れた彼女を応接間にお通しして話をうかがった。家内がお茶を入れてくれて、お茶菓子を運んできてくれている中、Tさんは熱っぽく、生の読経に満ち満ちている人間の根源的なエネルギーと発散について語ってくれた。そして、彼女がテーブルに出してくれたのは、過去2回の京都公演のチラシと、東京公演のチラシだった。2月11日吉祥寺STAR PINE'S CAFEとある。そこで、聞いた。

「お経を唱えてくれるお坊さんを探してるらしいけど、ひょっとしてこの来週のこと?」
「ええ、ゆくゆくは、京都とヨーロッパで、25人のお坊さんにお経を唱えてもらってやりたいんですけど、目下の所は、この来週なんですよ。ほんとうに困ってるんです」

京都でやってくれたお坊さんは?という私の問いに、彼女の驚愕の答えは……
次回“まあイヤラシイ”につづきます。