ちょっといい話

第112話 まあイヤラシイ

挿し絵  この話は第111話からの続きです。まずそちらを読んでください。
 ヌードダンサーでもあるTさんは言った。
「私は脱ぐことにこだわっているんです」
 こんな書き方をすると誤解をする人がいるかもしれないが、坊さんの私には彼女のこだわりがよく理解できた。服を脱いでいくということは、自分の飾りを脱ぎ捨てていくという人としてのあるべき姿の投影にほかならないだろう。ましてや誰だって裸で生まれてきたし、エロスなくして私達は生まれてこなかった。人の心を探っていけば、どうしても避けて通れないのが性の世界であるし、ヌードも性もけっしてイヤラシイものではない。それをイヤラシイと思う方が余程イヤラシイのだ。
仏教(たぶん禅宗)の話にこんなのがある。

 ある老僧が二人の小僧を従えて歩いていると、行く手に大きな水たまりがあった。そばでは若い女性が立ち往生して困っている様子だった。そこで老僧は近寄って「私がおぶってあげよう」と言って、彼女を背負うとジャブジャブ水たまりを渡って、無事に彼女をおろした。
再び弟子と一緒に歩きはじめてしばらく行くと、老僧の後ろで二人の小僧が何やらモゾモゾしている。どうしたのかと尋ねると弟子の一人が言いにくそうに言った。
「和尚さま。僧侶たるもの、女性に近づくことはもちろん、肌にさわることなどもっての他と存じますが、さきほどお師匠さまは、こともあろうに若い女性をおんぶされました。私どもは、そのような邪淫はいかがなことかと案じておりますが……」 すると、老僧は呆れ顔で言った。
「なんじゃ、お前たち。まだあの娘のことを背負っておったのか。わしはとっくにおろしたぞ」

 ああ、だめだ。全然おわらない……驚きの話の展開は次回“キャンセルの理由”で!