ちょっといい話

第113話 キャンセルの理由

挿し絵  (この話は第111話からの続きです。まずそちらを読んでください。)
 お経でダンスを踊りたいというTさんは、2月11日建国記念日のライブに、京都でやってくれたお坊さんがどうしてキャンセルになったかを話してくれた。
「それが、ですね。そのお坊さんはですね、じつはですね……」と、彼女は家内をチラリと見て続けた。
「そのお坊さんは奥さんに“これ以上ヌードダンサーと一緒にお経をやるのなら離婚してもらいます”って言われたんだそうです。私も夫婦離婚の原因にはなりたくありませんから」
すると家内が「うーん、私はその奥さんの気持ちは良くわかるわ。だって、ヌードとお経が、一緒のステージに上がる必然性はないと思うもの」と言った。

 私にはその必然性が充分に理解できた。不謹慎かもしれないが、面白い!とさえ思った(くれぐれも言っておきますが、私は彼女のヌードが見たいわけではありませんから!――こんな書き方するとかえって誤解されるかな)。
それにしても、Tさんが密蔵院に来たのは、1月31日(月)である。チラシも配って宣伝している公演は翌週の2月11日(金)である。二週間足らずである。にもかかわらず、もっとも大切な共演してくれるお坊さんがいないのだ。リハーサルだって2回はしたいというのが彼女の希望だった。だとしたら、あまりにも時間がない。そこで言った。
「そんなに困ってるんなら、来週の公演は、私がやりましょうか」

 彼女は勢いよく立ち上がると、天に向かってガッツポーズをして“やったー”と叫んだ。考えてみれば、こんな安請け合いをしてしまう私の方がガッツ坊主である。
 するとガッツ主婦が私をにらみながらきっぱり言った。
「あなたが、そういうところへ出るのなら、このお寺を出ていって、く・だ・さ・い」
 彼女は“ここもかぁ”と言ってへなへなとソファに崩れ落ちた……

 さて次回はいよいよクライマックス。“だって困ってるんでしょ”に続きます。