ちょっといい話

第114話 だって困ってるんでしょ

挿し絵  (この話は第111話からの続きです。まずそちらを読んでください。)
 家内にしてみれば、私のやろうとすることは無謀以外の何ものでもなかった。どんなステージになるかも分からない。宗派に属している私がヌードダンサーと共演することで、私だけでなく、宗派や仏教界に迷惑がかかるかもしれないのだ。相談に来た初対面のダンサーと2時間足らず話しただけで、ハイヨとOKを出せるほどたやすいことではない。
私にもそのことが分かったので、他をあたってみるよと言った。

 夕方、Tさんが帰ってから、私は一緒に聲明しょうみょうライブをしてくれている独身のS君に電話した。 生のお経に感激して、どうしてもお経で踊りたいという女性ダンサーがいること。しかしながら、彼女はダンスをしながらヌードになること。それはストリップのような男性の性欲をかき立てるようなものではないが、どんなステージになるは分からないから、今後のお坊さんの活動に支障をきたすおそれが皆無ではないこと。この話を最初に受けたお坊さんはこれが原因で離婚の危機を迎え、そしてついさっき私は寺を追い出される苦境に立ったこと。そして、そのステージは12日後であることなどを告げた。

 S君は電話の向こうで言った。
「僕、やりますよ」
「えっ?やってくれるの?でも、今言ったように、S君の今後の立場のこともあるんだよ」
私の言葉にS君が間髪入れずに答えた。
「やりますよ。だって名取さん、その人、困ってるんでしょ?」

 坊主だけに大袈裟だと思われるかもしれないが、私は彼の言葉に涙がにじんだ。問題が解決したから感激したのではない。目の前に困っている人がいる……だったら手伝いますよと、一瞬の間もなくS君が答えてくれたことに対する感涙だった。これぞ坊さんだ!と思った。
 S君に今回の企画書と彼女のプロフィールをファックスで送ってから、当のTさんに電話をした。
「やってくれる人が見つかったよ!」
との私の言葉に彼女は狂喜した。
しかし……次回“オンナの敵は……”でこの長い話、結末を迎えます。