ちょっといい話

第124話 いい・加減

 (「第123話 いい・かげん」からの続きです)せっかく風邪で眠っていたのに、看護婦さんに言われた“8時間おきに薬を飲むこと”を至上命令かのごとく思い込み、目覚まし時計まで使って起きて、わざわざ薬を飲む小学5年生の次男。私の“薬なんか飲むより眠ってるんなら、そのほうがいいんだ”という言葉に反論して言った。
「そんないい加減な飲み方じゃ、薬が効かないかもしれないじゃないか」
「そんなこたぁ、ないよ。それに今、お前“いい加減”って言ったけどね。いい加減っていう意味知ってるか?いい加減って言うのは、お風呂なんかに入っていて“湯加減どうですか?”“ああ、いい加減だよ”って、“ちょうどいい”っていう意味なんだぞ」

 それを聞いて、隣の部屋にいた中学1年だった長男が台所に入ってきながら弟を援護した。「まったく、お父さんはいつもそうやって話をテキトウにしちゃうんだから……」
 援軍に私は少しタジタジした。しかし、ここで負けてはおられぬ。もう次男の熱なんかはどうでもいい、こっちが熱くなっているのだ。今度は長男に向かって言った。
「あっ、お前。いまテキトウって言ったけどね。テキトウって漢字でどう書くか知ってるのか?“適するに当たる”って書くんだゾ!つまり、ちょうどいいって意味なんだぞ!」

挿し絵
 こちとら、正当なことを言っているのに、非難されているようで、半泣き状態である。すると長男は、呆れたようにニヤリとしながら、やけに冷静に言った。
「お父さんは、何だか言うことがアバウトなとこあるからなあ……」
「あっ?あ〜っ!お前、今アバウトって言ったな。何か買う時に“2、3個ください”ってアバウトな言い方するだろ。あれはな、3つください言って2つしかなかったら相手に恥をかかせることになるんだ。だから、あえて数をアバウトにして、相手に裁量権、つまり、えーと、なんだ、裁量権なんて言葉は分からないだろうけどな――つまり、お店のおじさんのことを思いやった、素晴らしい言い方なんだぞ。だからアバウトってえのは、いいことなんだ」
 気がつくと、次男はもう台所にはいなかった。自室に戻ったらしい。私が、アレッ?という顔をしていると、今度は長男が、首をふりながら隣の部屋へテレビの続きを見に行ってしまった。

 ……家族の者は誰も本気にしてくれていないが、私は今でも“いい・加減”というのは、心の幅のことだと思っている。ハンドルやブレーキのアソビの幅だと思っている。坊さん的に言えば、どう考えても、仏さまが四角四面の、余裕のない考え方をするとは思えないのだ。

 さて、次回は久しぶりに、都鳥さんからのリクエスト“病の流れ流れて行くところ?”をそのままいただきます。亡くなってからちょうど10年目の父が晩年、書き綴った言葉をご紹介する形で進めます。病気で弱気になっている方、読んでみてください。