ちょっといい話

第129話 アブナイおばさんの装い

挿し絵  西国観音霊場第三十番の札所は、琵琶湖に浮かぶ竹生島の宝厳寺。ご住職の峰覚雄さんは、私のお友達。今回ご紹介するのは、彼から十年ほど前にきいた話です。

 その年の春先のこと。彼はいつものように、船でやってくるお参りの方々を、納経所で待っていました。お寺では、写経を収めたり、お堂で読経した人に、その証として朱印を押します。これを集めて持ってあの世へ行くと、極楽へフリーパスになります。その朱印を押すところが納経所です。
 船が着く時間になって、船着場からやってくるお参りの方々の中に、彼は異様な格好のご婦人を見つけました。歳は七十に近いはずなのに、歳不相応な赤い派手なワンピースをまとい、首からのネックレスの数も尋常ではありません。春先にはこういうアブナイ人が時々来るらしいのですが、うまく対応する自信がない彼は、そのまま本堂へ行ってほしいと、彼女と目を合わせまいと必至でした。が、彼女は彼の待つ納経所へ一直線。そして言いました。
「これから本堂でお参りをさせていただきますので、ご朱印を頂戴できませんでしょうか。帰りにお寄りいたしますので」
 納経帳面を差しだした彼女の両手の指には、これ以上はめられない程の指輪が……
 やがて帰ってきたご婦人は、どことなくおどおどしている彼にこう切りだしました。
「お坊さん。私のこと変なおばさんだと思っておいででしょう」
「い、いえ、そんなことはありません」
「私が、年甲斐もなく、こんな格好をしているのには、わけがあるんです」

 彼女はその理由を話はじめました。
「私は女学校の時に、広島で被爆しました。幸い命は助かったのですが、大勢の友達はその後も後遺症で入院いているんです。そのお友達が亡くなったという知らせを受けると、ご遺族にお願いして友達の身につけていたものを、形見として一つづつもらいます。このワンピースも、ネックレスも指輪も、どれもそのお友達の形見なんです。私は、こうして身につけて、お友達みんなと一緒に観音さまにお参りさせていただいて、みんなの冥福と世界の平和をお祈りしてるんです」

 私はこの話を聞いて、人は外見で判断しちゃ駄目!以上のものをズッシリと背負った気になりました。物見遊山でお寺まわりをして、スタンプ帳のつもりで朱印を集めている人がいるもの事実。しかし、そうではない方々も大勢います。そのやるせない思いを聞き届けてきた仏さまが、ほら、あなたの近所のお寺にもいらっしゃいます。

 さて次回は、久しぶりに南アルプス市のreikoさんからのお題“子は親の鏡?”でいきます。アメリカの先住民族の経験から紡ぎ出された智恵はスゴイ!