ちょっといい話

第137話 縁起担ぎ?

挿し絵  学校の運動会の日に雨がふりそうだった。当時PTA会長だった私を含めて、来賓たちはとりあえず学校に集合。会議室に集まった。校長が入ってきて、恐縮しながら「どうも、私のふだんの行いが悪いものですから、こんな天気になってしまいまして……」
 もちろん、本気でそうだと思う人はいない。しかし、私たちは、結果には必ず原因があることを知っている。あやしい雲行きになったのは、ひょっとしたら校長の日頃の生活態度の悪さなのかもしれない。だから、良い結果を得るために、その種をまいておこうというのが“縁起担ぎ”だ。

 で、今の日本でもっとも縁起担ぎがおこなわれている現場が、前話の最後でふれたお節料理だろうと思う(とはいえ、そう思うようになったのは今年のお正月からです)。
 子孫繁栄を願う数の子、八頭(やつがしら)に代表されるお芋。ダジャレの元祖みたいな鯛(めでタイ)、昆布(よろコブ!)。色形でなかば強引に連想づける紅白のかまぼこ、ナマス、海老(腰がまがるまで長生きしたい)、ハス(先が見とおせるように)。
 もともと、新年にやって来る神さまをもてなすために作られた料理だそうだが、とくに江戸時代になって平和が続いて、人々に洒落を楽しむ気風が育ち、それがお節料理にまで浸透したらしい。だから、これはもう半ば遊びの精神といってもいいだろう。
 さて、伝統を重んじるお寺としても、その遊び心で今年のお正月、我が家は有名ホテルの洋風お節を注文してみた。初の試みだ。しかし、結果は思わしくなかった。見た目は豪勢だが、ローストビーフやロブスターは三日間食べ続けられる味ではなかった。一食たべればもう結構です……そんな感じだった。正月だけでも豪勢に!という気風より、日本人の文化として、その年一年が良き年になりますようにと願いが込められていないと新年の料理としてはふさわしく感じられないことに気がついた。
 せめて洋風お節も、ウッシウッシ(牛牛)と笑え、ギューッ(牛)といいことが詰め込まれる、悪いことはロスト(無く)されるローストビーフはいかが?スターになれるロブスターはどう?などと語呂合わせをしてみたらどうかと思う。

 最後に“縁起”の正しい仏教的知識をお伝えします。この言葉は、どんなことでも原因があり、条件が加わり、結果が生じるという、至極あたり前のこと(まあ言い換えれば宇宙の法則みたいなもんです)を言っています。気をつけたいのは、この縁起に良いとか悪いという固有の性質はないということです。したがって、吉兆や凶兆を気にし過ぎるような縁起の担ぎ方はしないほうがいいです。何が良いか、悪いかというのは人によって違いますからね。

 さて、次回は先月末に10日間我が家にいた、2年前に香港からオーストラリアに家族で移住した交換留学生アニー(16才)のこと。“ホンコン風が吹いた”と題して進めてみます。