ちょっといい話

第147話 相手への興味、関心、好奇心!

挿し絵  今回は先週(第146話 無理やり好奇心)からの続きです。まずそちらをお読みください。

 居酒屋でトイレの場所を知らないという初対面の出張風サラリーマンの言葉に、「ああ、そうですか。失礼しました。では、店員さんに聞いてみます」と私は立ち上がって、通りかかった店員さんにトイレはどこか聞いた。彼女は目の前ののれんを指して"こちらになります"と答えた。
 トイレで小用を済ませて私は席に戻って彼に言った。
「トイレは私たちのすぐ後ろでした」「ああ、そうなんですか」
 私はもう一歩勇気を出すために、冷酒をもう一口ゴクリと飲み込んだ。そして、言った。
「お一人で、気楽に食事をされているところを恐縮ですが……実は私は真言宗の坊さんで、明日話をすることになっていて、先程東京から隣のビジネスホテル着いたばかりなんです。差し支えなければ、お仕事は何をしていらっしゃるかお聞かせいただけませんか?」
 彼は手帳をカバンに仕舞うと、居ずまいを正して答えてくれた。
「私は高崎のソファを作っている家具メーカーの営業なんですが、明日地元の家具屋さんでフェアがあって、その売り場の応援に来たんです」
 営業マンらしく(というより彼のお人柄だと思うが)誠実な話し方だった。
 その後、私は子供(大学3年男、大学2年男、高校2年女)のことを伝え"差し支えなければ、結婚していらっしゃるか教えていただけませんか"と尋ねた。
私は、なるべく自分のことを簡単に話してから、彼に同じカテゴリーの個人的質問をした。し続けた。だって、お互い出張で長野に来て、同じ居酒屋で、隣同士の席ですよ!
 いつの間にか、私はメニューにある地酒を全種類達成。彼もビールを4杯は注文していた。
7時半くらいに出合った私たちは、ほとんどありとあらゆる話をして、気がつくとお店のBGMは"蛍の光"。結局二人で店を出たのは12時だった。
 翌日、私は二日酔いの身体を、紅葉が見事な川中島合戦場を歩きながらさまし、どうにか法話のお役目を果たして、大した渋滞にも巻き込まれずに帰坊(お寺へ帰ること)した。

 寺に着いて家内の夕べの顛末を告げると、家内は開口一番にこう言った。
「あなた、その方がトイレの場所を知らないというのは、いつもトイレに行くほど長い時間は飲んでいないということよ。失礼なことしたんじゃないの?」
 ……でも、私は思う。次の出張も、必ず居酒屋へ一人で入ってみようと。
 高崎の馬場家具(http://www.babakagu.co.jp/)の田村秀則さん!有り難うございました!

   さて、次回はこの話の元になっている、村上正行アナウンサーのエピソードをご紹介します。自分には取り柄がないと思っている人、読んでみてください。