ちょっといい話

第156話 正直であること

挿し絵 私が“青春の応援団長”と呼んでいる若者がいる。ギブソンのギターをドがつくほど太い音で弾く。歌詞に込められた思いを、表情ゆたかに精一杯に歌いあげる。大阪箕面在住のシンガー・ソング・ライター――森源太である。
 森源太公式サイト

 長崎出身の彼は、大学生の時ギターと出合う。在学中から路上で演奏活動を始めた。その時に、東京からやってきた元音楽関係者から“君、才能あるよ”と言われ、卒業後、好きな音楽で暮らしていけたらと思い、上京。一年間仕事をしながら活動を続けたが、鳴かず飛ばず……しかし、このまま九州へ帰っては必ず悔いが残ると思い。ママチャリに我が身とギターを載せて日本一周の旅に。

 “すべての出会いは必然だと思っとるとです”と言わしめるほど、多くの出会いが彼を育てた。彼のライブでは一曲ごとにその曲ができたエピソードが長崎弁で語られる。
 “20代半ばにして、世の中おかげさまなんだと悟ったとです”
――どこまでも正直で、熱く、聞く人を魅了してやまない。

 人が生まれ、生きて、出会うことを、心の奥でしっかりかみしめ、実はそれが当たり前のことではなく、有ること難いことだと源太は感じ、素直で優しい歌となって滲み出てくる――
 生まれてくれて 生きてきてくれて 出会ってくれて
 心から 心から ありがとう

 『生命(いのち)』より。
 何かに挑戦しようとする時の不安、これから立ち向かうことになるであろう数々の困難、でも、小さい頃から桜の花の咲く頃に、いくつもそんなスタートをきってきた。その時、あなたは一人ではなかったじゃないか。大勢の人が応援してくれている、僕もその一人でいるからと源太は名乗りをあげ、力強いエールを送る――
 全てが希望に満ちてはいない 背中合わせの不安がそこに
 それが自分で選んだ道ならば 光の指す場所がその向こうにあるならば
 乗り越えねばならない高い壁と 踏みしめねばならない刺すような痛み
 笑いとばさねばならない深い怖さ 涙で繕わねばならない傷もある

 『桜の頃』より。
 弱気になっているあなた、でも大丈夫。必ず今のあなたに意味がある。僕がそうだったと源太は確信に満ちて、背中を押し続けてくれる――
 弱音くらい吐いても良いから 恥じることなどひとつも無いから
 君の姿が誰かの笑顔に変わる 君の現在には大切な意味がある

 『頑張れ』より。
 彼のライブでは、多くの若者が涙する。私も今の自分の悩みを重ね合わせ目頭が熱くなる。
 他への共感と励まし、そして勇気……歌を通してその大切さを伝える彼の土台になっているのは“自分に正直であること”だと思う。

 さて、来週は、勇気つながりで“異説 不動明王”でいきます。仏って何だ?と思っている方、読んでみて。